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水の中で眠りたい

朝から土砂降りの雨で、川の水は渦を巻きながらどおどおと流れていた。見たこともないくらい水かさを増して。

昼過ぎにバイトを終えてタクシーに乗って帰った。タクシーに乗るのは好き。運転手さんがおしゃべりな人だと尚よくて、今日の人もよく喋るひとで楽しかった。途中でコンビニに寄ってもらい、今日と明日食べるものを買い込んだ。おにぎり、パン、サンドイッチ、パピコ、炭酸水、お茶、グミ、から揚げ。うちに帰ってからもなんども携帯のアラートが鳴り、なんだか騒がしい1日だった。

バケツをひっくり返したような雨というのはこういうのをいうんだろうな、と思うくらいにひどく降り続いた雨は、あちこちで山を崩し、川を氾濫させ、たちまち町を飲み込んでしまった。私たちは6階に住んでいるのでよっぽどのことがない限り流されることはないだろうけれど、それでもニュースで流れてくる映像を見ていると、明日の朝には全部きれいさっぱり流れてしまうんじゃないかとこわくなった。

それでも雨の日が好きだと思う。雨音を聞いていると落ち着くし、水たまりに足を入れたり飛び越えたりするのは楽しい。小ぶりの雨を眺めながら本を読むのも好き。

雨に打たれた日はなんだか眠たくなる。プールから上がってぼうっとしているときに似ている。水は私にとって落ち着くもので、何か安心する作用を持っているのだと思う。

 

恋人は海と川を愛しているので、よく水のある場所に連れて行ってくれる。彼の不思議なくらいに私を甘やかすところも、穏やかな海のようだと思う。

ときどき思うのは、彼が標準語を話す人でよかった、ということ。関東で生まれ育った人なので当然なのだろうけれど、九州に生まれ育った私にはあの言葉たちがほんとうにやさしくてきれいに聞こえる。姉は「女々しくて嫌だ」というけれど。小さい頃から方言というものがこわかったので、なるべく標準語を使おうと心がけてきたつもりだったけれど、彼にはすぐ訛りがバレてしまうので少し悲しい。九州の方言を聞くと常に怒られているような気持ちになる。怒られているか、馬鹿にされているか、何かひどいことを言われているようなガサツさ。彼の言葉にはトゲがない。いつもやわらかく響く。それが単に恋人だからそうなのか、言葉使いのせいなのかはよくわからないけれど。

明日は雨のおかげでお休みなので、ゆっくりのんびり過ごしたいところだけれど、課題が山積みなのできっと勉強漬けの1日になるんだろうな。(ちゃんと勉強をするのかは置いておいて)

朝塗り直したばかりの赤いペディキュアを後輩の男の子が褒めてくれたのでなんだか気分が良かった。

台風が来る日だったので1歩も外に出なかった。窓を開けることすらしなかった。

何をして過ごしていたのか自分でもよく思い出せないけれど今日はたくさん眠れたと思う。朝から二度寝をして、昼寝をして、夕方にもう一度眠った。低気圧のせいでずっと頭痛がやまなくて目を開けていられなかったというのもあるけれど。

夕飯の代わりにネクタリンを二つ食べた。皮ごとかじって食べると瑞々しくて美味しかった。先日見たイタリア映画の中でプラムのジュースが出てきたことを思い出した。ヨーロッパの日差しの下で齧る果実の味はきっと随分と違うんだろうな。テレビではニューヨークのギリシア人街が映っていて、両親はイギリス旅行の話をしていた。ここはどこなんだろうと不思議に思った。私はなんとなくヘルシンキに行きたいなと思った。

明日は学校に用事があるので外に出なければならない。ホワイトニングの薬剤は甘すぎるガムみたいな味がする。苦いよりはいいけれど、体に良くないんだろうなということはわかる。

恋人と夏の予定を立てた。だいぶ先のことだけれど、未来の話をできるというのは素敵なことだ。少なくともその日までは私は1人にならなくて済む。甘やかされずに生きるということを知らないので、そのうち痛い目を見るんだろうと思う。

岡崎京子のピンクを読むと人生悪くないなと思えるので好きだ。江國香織の小説にもそんな作用がある。岩井俊二の映画にも。

毎日が台風だったらいいのに。もう誰もどこにもいかなくていいのに。